稽古三昧

九月十日(土)晴、暑き事真夏に異ならず
十一時より戸山町一如庵にて尺八稽古。松風裏調子を初めて吹く。稽古の後神先生に婚約の報告。暫し話し込んだ後辞して、早稲田から九段下に出て其処から半蔵門線に乗り其の儘田園都市線つきみ野に至る。岳父の運転する車にてN子が向へに来て呉れ、N子の実家に行く。遅き昼餉の後初めての茶道稽古を為す。盆点前で袱紗さばきなどを岳母より習ふ。合理的かつ流麗な所作なれば早く身につけたきもの也。他に生徒無く余とN子のみなれば薄茶と濃茶の点前をN子がやり、各々一服づつ頂く。其の後呉服屋の越後屋さんがN子のコートや帯の仕上がつた物を持ち来たり、併せて先日Kさんから頂戴した大島紬の着物の余の体に合はせた裄丈直しを依頼す。また、男物の着物の揃へ方など諸々相談す。歯にもの着せぬ昔気質の江戸の呉服屋の風があり、余も一目で信頼を置くに至る。
越後屋さんが帰つて暫くしてN子の妹夫婦が来る。初対面なれば挨拶す。義弟となるМ氏は甲子園での優勝投手にて当時は人気のあつた選手なりといふ。夕刻に至り和室にて余が尺八を吹くこととなる。義父母と同居するN子の叔父叔母夫妻も加はつた総勢七名を前に、阿字観、松風、布袋軒鈴慕を吹く。最初やや緊張して音が安定せざるも結果として独りで吹くより余程上手く吹けるもの也。N子を除けば皆初めて聴く二尺三寸の竹の音色と楽譜に感心する事頻り也。
其の後妹夫婦のひとり息子も塾の後合流し、計九人にて鉄板焼きの夕食となる。余もビールを飲み新たに親戚となる人々との食事歓談を楽しむ。九時半過ぎ再び岳父の運転にてつきみ野まで送られて余とN子は自宅に戻る。