彼誰忘年会

十二月三日(土)晴
午前中クリーニング屋に行き、車にガソリンを入れ灯油を買ひ、ドラツグストアで買物をして何とか通信最新号を出発前にを仕上げて、急ぎ昼食をとり外出。二時より一如庵にて尺八稽古。其の後古本屋を見て何冊か買つた後早稲田大学本部キヤンパス内会津八一記念館に赴く。旧富岡コレクシオンの茶碗の展示を観る。長次郎の銘破れ窓あり。其の後の樂茶碗と比べても端正といふ言葉がぴつたりと来る姿形なり。その他江戸期の茶碗や朝鮮渡りの佳品を見る。当たり前だらうが、茶の湯を始めて余計に興味が増す。それかせオセアニア民族造形美術品展も見る。丁度『密林の語り部』を読み終へた処でもあり、アマゾンとニユーギニアといふ違ひこそあれ呪術とアニミズムが人々の考へ方の中心を占める民族の思念を思ふ上で考へさせることの多い迫力のある展示であり、色彩感覚と微笑ましくも同時に恐ろしさを感じさせる祖先や精霊の造形に感じることが少なからずあつた。無料で随時かうした展示がなされてゐることに感謝したい。早稲田に寄贈された旧富岡美術館蔵目録の中に『勝家伝来文書』といふものがあり、見ると余の尊敬措く能はざる勝海舟の書だけでなく、やはり余が其の筆墨を好む佐久間象山始め極めて好ましき書が掲載されてあり、思はず1500円払つて購ふ。それから東西線で中野に移り、ブロードウエイに残る古本屋に到れば畏友橋本氏の姿在り。須臾にして倶に古書肆を去り六時半前酒舗第二力に赴く。やがて彼誰同人各氏集ひ来たり同人各位、即ち中附文芸部OBの忘年会始まる。参ずる者六名、出来上がつたばかりの通信を配布す。快楽亭ブラツクの話からTPPによる医療崩壊の可能性、はたまた日本鎖国すべしといふ論調まで、いつもながら丁丁発止、話題の妙止まる処を知らざるが如き熱き議論に時間はあつといふ間に過ぎ、余は十時にひとり辞して帰路に就く。中には早や三十五年に到る付合ひの者もあるも、星霜を経てますます青雲の志を同じくし、倶に語り合ふ楽しさは高校時代に倍加す。年に数度会ふのみの間柄なれど、この同志在るが故に余も在るといふ思ひ強し。楽しき一日を過ごす。