ことばのちから

一月二十八日(土)晴
七時半起床。九時過ぎ家を出づるも根岸線運転見合せ等あり、十一時少し過ぎて一如庵着。如道忌にて松風を如覚の曙調子との二管にて吹くこととなり、鈴慕無住心曲を吹いた他松風を都合四回吹く。終ればすでに十二時半にて急ぎ品川に赴く。新幹線口にてN子と合流し、急ぎインターシテイホールに往く。一時半より奈良県主催・古事記編纂一三〇〇年を祝ふ「うた こころ ものがたり」に参加。松岡正剛先生が構成を手掛け、司会のやうな形で進行するイベントである。奈良県知事の挨拶で始まるが、隣の大阪の元知事と比べてもまともで知的な方である。ゲストは歌人岡野弘彦、舞踊の田中泯、作曲家の井上鑑の三人。松岡さんとのトークと、泯さんの踊り、井上の音楽、さらに井上の音楽と万葉の和歌で泯さんが躍るといふ趣向である。古事記万葉集から引かれた和歌、岡野弘彦作の短歌といつた「ことば」と「うた」を中心に話は進むのだが、そこに松岡さんの持論や最近の拘りである妣の国、母国といふもの、昨年の震災後の日本の姿が絡む。それにしても、引用された万葉や古事記の歌から、忘れかけてゐたことばの力を感じずには居られなかつた。松岡さんの本ではよく出てくるものの初めて見る田中泯の踊りやその姿にも魅了されたし、七十に近い松岡さんや田中泯の醸し出すエネルギーと色気には圧倒された。しかし、それ以上の力を万葉や古事記のことばが持つてゐることに、ただただ驚くより他はない。
沫雪(あわゆき)の ほどろほどろに ふりしけば
        平城(なら)の京(みやこ)し 念(おも)ほゆるかも
                               −大伴旅人