萌緑濡れるが如し

四月二十八日(土)快晴
八時半ホテルをチエツクアウトして荷物を預けてから山陰線にて花園まで行き徒歩法金剛院に至る。九時過ぎやつと門が開き拝観。余は庭を目当てに行くも、京に珍しき律宗寺院なるが故に財政厳しいものか庭はやや荒れて写真で見る程は美しからざるもよく晴れて湿気の少ない気持ちの良い朝を庭を見ながらのんびりと過ごす。また、佛像に見るべきものあり。十一面観音は逆に写真で見るより実物の方が美し。連休初日なれど打ち捨てられたるやうなる寺にて拝観客少なく、落ち着いて見学できたるは幸ひなり。此の寺は抑々余の京都庭園巡りの手引きたる光村推古書院刊、水野克比古著『京都名庭園』にて知りたるものにて、此の本にて紹介されたる九十八の庭のうち今回の旅にて七十三カ所を踏破す。我ながらよく回つたものだと思ふ。残り二十六庭園を見終へるのと二十二社参詣を終へるのとどちらが早いか自分でも予想できないが、いづれ成し遂げたいと思ふ。
法金剛院の庭
法金剛院を辞し花園駅に戻りバスで移動せんとするも丁度出たばかりにて三十分程時間が空いたれば、N子が妙心寺を訪ねたることなしとのことなれば、南門より入り三門や法堂を眺めてから塔頭の間を通つてバス通りに戾る。N子は東福寺に続いて妙心寺も殊の外気に入りたる様子也。妙心寺前より京都市バスにて清涼寺前まで移動。近くの喫茶店で珈琲を飲んだ後清涼寺に入る。余は二度目なれど季節も異なればまた印象も違ひ、庭や佛像、さらに前回閉まつてゐた宝蔵館を面白く見る。

清涼寺
源融の墓等見た後天龍寺方面に歩く。次第に観光客の数が増えていくのが分かる。野宮神社を参拝後天龍寺近くで饂飩の昼食をとる。其の後天龍寺境内に入り春の特別公開中の弘源寺を拝観。嵐山を借景とした虎嘯の庭も素晴らしいが、竹内栖鳳一派の絵を多く展示してをりそれらも面白く見る。
野宮神社

弘源寺虎嘯の庭
弘源寺を出てさらに進んで宝厳院に至る。此方も実に美しい庭にて、嵯峨野の新緑は正に濡れるが如くに鮮やかで、長い冬が終り春の来たことの喜びを自然とともに分かち合ふ気がして実に幸せな気分になる。昨日は急ぎ過ぎた感もあり今日はどこも時間をかけて見てをり、此処では抹茶も喫し晩春の午後をじつくりと楽しむ。




宝厳院
名残を惜しみつつ天龍寺を後にし山陰線嵯峨嵐山駅に向かふ。駅前の紙屋にて和綴じノートが安かつたので其れを二冊と和紙を購ひ京都に戻り、荷物を取りて四時半過ぎの新幹線にて帰浜。帰宅七時半前。片づけや土産の整理など為し十一時半就寝。