絽の着物

六月三十日(土)晴後陰
午前中車の六か月点検に行つた後N子の実家に往き午後は茶の湯。濡れ茶巾の点前を前回に続き三回ほど稽古。夕方越後屋さんが余の絽の着物と帯を持ち來る。絽の長着、麻の長襦袢とも反物で見たときより遥かに粋にて嬉しくなる。しかも帯が今まで見たこともない網目の透かしのものにて、着物と合はせると実に涼し気になり、とても素人筋には見えない。斯く喜び居るところ越後屋さん徐に女物の帯や反物数端を取り出す。金地に宗達の雷神の入った帯も見事なれど、一つ草木染の色柄に富む反物あり。N子に丁度似合ひさうな上、聞けば破格の安さ也。旦那の着物が仕上がり上機嫌なところに女房好みの反物を出して欲しいと言はれれば駄目とも言へぬ絶妙の間合ひにて、商売上手と言ふべし。旦し、町場の今風の着物屋と異り、昔気質の呉服屋の風ありて、馴染みの客の趣味・好みをよく知り格安にて提供するものなれば、客はみな購入後も満足して益々信頼を寄せる也。しかも月賦も可能で、もちろん利息は取らない上、こちらの都合で仕立てを急がせたにも関はらず今回の着物代にしても請求書さへまだ出さず。結局此の女物の着物の注文も取り付けて越後屋さんは帰りぬ。其の後夕刻に至り和室で尺八の練習を為すに近来になく音がよく出て気持ち良ければ、大和樂から松風、越後三谷、普大寺虚空、無住心曲、流し鈴慕と再び越後三谷を吹き、夕食をとつた後帰宅。