執筆及び予約 

九月十七日(日)陰時々驟雨
宿酔にて頭脳の巡り低調なれど終日家に在つて執筆に勤しむ。此の日乘は満寿屋の二百字詰原稿用紙(No.101)にペリカンのスーベレンM800で書き、「広告」誌より依頼されし原稿には同じく満寿屋の四百字詰原稿用紙(No.111)にモンブランのマイスターシユテツク149を用ゐて書く。余は昔から此の満寿屋の原稿用紙を好んで使つてゐたが、先日偶々ネツトで満寿屋のホームページを見つけ、戦後の多くの作家たちが愛用してゐたことを初めて知る。リストによれば三島も吉行も水上勉大岡昇平宇野千代も使つてゐたさうだ。川端や小林秀雄福田恒存大江健三郎の名も見える。名だたる作家連であり、余の如き者が愛用するのは畏れ多い氣もするが、前から氣に入つて使つてゐるものだから仕方がない。前に人に勧められて伊東屋のものを使つたこともあるが、万年筆の走りがまるで違ふのですぐに止して満寿屋に戻した。此方はすべり過ぎず、吸いつくやうにぴたりと止まる感じで實に書きやすいのである。まあ、要するに文房具自慢をしたかつただけである。此の日は又、演奏会の切符手配をネツトで二件行ふ。一つは國立劇場で開かれる新内の会、もう一つは東京藝術劇場で行はれる「三弦―海を越えて」といふコンサート。義太夫地歌長唄から蒙古、琉球、中國の三弦、そして津輕三味線までをカバーする文字通りの三弦尽しである。ともに十月で、此の月は余にとりて新内、端唄を含めてとことん三弦の音色に浸ることになりさうである。