映畫と尺八 

九月十六日(日)陰時々雨
七時起床。八時二十分家人と倶に家を出で横濱に往く。九時半より西口ムービルにて映畫「あなたへ」を見る。夫婦どちらかが五十歳以上ならば二人で二千円と割引になる。シニアになるのも惡くはない。昨日も地下鐡で一つだけ席が空いたので家人を座らせやうとすると掛けてゐた黒人青年がさつと立つて余に席を譲つてくれた。恐らくは着物を着てゐる人=年寄りといふ連想が働いたものであらう。「ああすみませんね」と愛想よくお禮を言つて座る。菫山老人初めて席を譲られるの圖である。さて映畫の方は降旗康男監督高倉健主演。刑務官の健さんが、亡き妻田中裕子の遺言で彼女の故郷平戸まで旅する一種のロードムービーである。大滝秀治長塚京三原田美枝子等余の好む名優が脇を締め、雲海に浮ぶ竹田城や平戸の海の日没など映畫らしき美しい映像もあり樂めた。晝前友人宅に往く家人と横濱駅にて別れ余は一如庵に向かふ。二時より如道會例會。大和樂、布袋軒三谷を全員で吹いた後各自演奏。余はK氏と二管にて越後三谷を吹く。四時より宴席となり殘りたる十二名程が飲食を倶にし歓談に時を過す。此の日酒は土佐鶴が供せられ呑むに思ひの他旨し。六時過ぎ散会となり、余はM地S田両先輩と夏目坂下茜どきなる居酒屋に赴く。程なくO部君も加はり九時頃まで居る。両先輩の如道先生の懐古談等面白く、余は聊か痛飲、宿酔を殘す結果となる。十一時過ぎ雨の中家人が車で駅まで迎へに來てくれ、帰宅後直ちに就寝。