象山の書 

九月二十日(木)陰、夜涼し
歸宅すると古裂會から封書が届いてゐた。開けてみると同會の第六十八囘オークシヨンに余が入札してゐた佐久間象山の二行書幅の落札の知らせであつた。同會は出展品の型録を送つて來てフアツクスで応札するといふやり方で、眞贋を保證しない分入札最低価格が比較的安い為入札はしやすい。今囘は海舟の書にも食指は動いたが、購へない額ではない象山の方に初めて入札してみたのである。余は大原はじめ京都の寺で幾つか象山の書を見る機会があり気に入つてゐたもので、落札した掛け軸は象山の傑作とは言へぬが眞筆であらうと思つている。今囘の軸を嶺庵に飾るには自在掛と矢筈を用意せねばならず、また骨董市で手頃な風鎮があれば揃へたいからまだ準備に時間は掛かりさうである。それに書の内容が春の漢詩であるから、お披露目は早くても來春にならう。春には賓客を迎へて嶺庵茶話会を開きたいもので、それに向けてまた欲しいものも増えさうである。