出張二日目 

十一月八日(木)晴
七時過ぎ起床。朝餉の後家人と宿を發ち桜橋交差点にて袂を別つ。家人は電車で京都に向ひ余は徒歩堂島の大阪支店に赴く。十時營業のM氏運轉の車にて、研究N氏と三人で奈良の得意先O社に往く。先方担当課長と面談。中華の晝食を取った後一路京都山科に向ふ。車中余は熟睡。早めに着き次の約束まで間があれば毘沙門堂に行く。M氏は車に殘り、N氏と拝観。一部に紅葉を見るが殆どが青葉なり。此処には余は一度來りし事あるも、風光良く庭の好印象もあり再訪す。紅葉未だ山を染めざるは殘念なるも閑かな刻を過すを得たり。



毘沙門堂
三時よりE社にて打合せ。思ひの他早く終はり烏丸御池まで車で送られ室町通りの安ホテルに投宿。家人に電話を入れるに友人と三条通りに居るといふので烏丸通りと三条通りの交差する角に在るカフエにて待ち合せ、三人で近くの男着物の店えいたろうに行く。和服に合ふ鞄を捜しに入るも結局反物など出して貰ひ、氣に入りたる梨地織の反物が俄かに欲しくなり、明日改めて太陽光で色合ひを確かめることにして店を後にす。家人の友人Iさんとは烏丸通りで別れ、家人と余は三条通りを東進。途上に丹波の焼物を置く店に入るに、店主氣さくに様々な話を為し聞けば釜師六代目佐々木彦兵衛その人也と云ふ。話し好きらしく様々の問はず語り面白く聞く。最初に良いと思ひし古丹波のぐい呑を購ふ。茶釜の方は流石に良いものを置けど、安くても百萬圓単位のものと云ふ。辞して更に東進、鴨川を越え大和大路通りを下る。途上名物裂端切等を扱ふちんぎれ屋に入り、家人は古裂の蝦蟇口を購ふ。品物の割に江戸では求め得ぬ安価也。更に南下し白川南通を白川に沿つて東に歩き再び南に進路を變へ四条通りを渡つて花見小路を歩む。程良き時間になりたれば予約を入れたる大和大路の琢磨本店に入る。手頃な値段で和食を樂しめる店にて、今囘も此の店の名物鴨饅頭を堪能す。八時半前出で建仁寺横を東に曲り、圓徳院に至る。ライトアツプの夜間拝観中なれば拝観す。數年前訪ねし晩秋の紅葉忘れ難しと雖も夜見る庭は亦格別か。僅かに紅らむ木もあり、人も左程多くなければ暫し俗麈を離れたる心地を樂しむ。辞して東大路まで歩み、其処からタクシーに乘り宿に歸る。湯舟に湯を張り入浴の後就寝。

圓徳院