悦讀

七月六日(日)陰
高橋箒庵の日記『万象録』の大正七年の部、そして『東都茶會記』の同じ時期に書かれた第四巻を併行して讀む。此の年は水戸徳川家、稲葉家、近衛家などの蔵品売立があり、箒庵が奔走する様や船成金の動向など分かつて面白し。最近、鳥渡妙な事に興味を持ち、売立目録をあれこれ調べてゐる。茶道具掛物といった文化財は當然の事ながら其の時代の経済力や地位、嗜好によって所有者が變はる訳で、大正六・七年に売立入札會が相次いだ事は時代背景を考へるととても興味深い。其処に「香木」といふ一つの特殊な蔵品を軸に据えると、茶道具とは又違つた世界が見えてくるのである。
箒庵の文語文、流石に堂に入つて味はひあり。第一次大戦勃発後の、大正五・六年辺りから大震災、さらに大恐慌までが目下余の最も興味ある時代也。万象録を便りに数寄者や政財界人の其の間の消息を追ひかけてみやうと思ふ。
本日、熊倉功夫著『近代数寄者の茶の湯』と紀田順一郎著『明治大正成金列傳』を註文す。