かをりをりのうた 6

十二月十五日(火)陰時々晴

にほひ來るまくらに寒き梅が香に暗き雨夜の星やいづらむ
藤原定家〜詠百首和歌

早春のまだ寒い夜ふけ、枕邉に梅の香りを感じると、一輪一輪と咲く白梅のすがたが目に浮かび、それが雨で月を見ることのなかつた夜空に新たに生まれ出た星の煌めきの幻視へと誘ふ。邦雄評していはく「凄艶」。同意するより他はない。暗闇に咲く梅の香りを愛でる漢詩以來の傳統を横目に見ながら、香りに寒さを感じ、かつ白梅の花のほころびを發光に見立てる技巧の冴え。想像力がもつとも優れた技巧であることをあらためて感じさせてくれる一首である。