江月と行倒れ淀君

二月六日(土)晴
朝有樂町に出で徒歩出光美術館に到る。「書の流儀」展を觀る。先日『魯山人書説』を讀んだせゐもあらうが、確かに一休や江月の書はよく、山陽や光悦は落ちる事が實感できた。今囘では浦上玉堂が思ひの他良かつた。光悦よりは乾山が好きで、松花堂一派は少しも良いと思へない。假名もせいぜい室町時代までは見られるが、良いのは鎌倉までだらう。公任より行成、佐理より道風が余の好みだが、此の邉を越える者は其の後出てゐまい。改めて、本當に優れた書はさうさうあるものではないことが理解できた。出光を出て日比谷から日本橋の室町の邉りまで歩く。一時よりお江戸日本橋亭にて新内岡本派の會。演目は明烏夢淡雪より浦里部屋と雪責め、それから行倒れ淀君である。宮之助師匠の解説含みの口上も面白く、淀君は聲も伸びて堪能、久しぶりの新内であつたが十分に樂しむことが出來た。終演後宮之助師匠にご無沙汰を詫びるとともに今月二十八日に紀尾井小ホールで開かれる新内協会による新内鑑賞會の切符代を支拂ふ。邦樂振興基金の助成も此の三月で切れるとのことで、新内の世界もだいぶ大變さうである。裕福なら支援もしたいところだが、取り敢へず公演には駆けつけようと思ふ。新日本橋から電車で歸宅。雪が降つたら熱燗を呑みながら雪を眺め、地歌「ゆき」を聞かうと思つたが降らず。