曜變天目と瀧落

二月二十一日(日)晴
九時半過ぎ車で家人と出で静嘉堂文庫に赴く。曜變天目、油滴天目、長次郎作黒樂銘紙屋黒、唐物茄子茶入等茶之湯の世界で有名なる優品の數々を觀る。特に稲葉天目の別名を持つ曜變は、其の稲葉家からの賣り立ての際の経緯を高橋箒庵『萬象録』にて讀み知りたれば興味深く見る。これで藤田美術館蔵に續きふたつ曜變を觀たことになる。
また、煎茶の道具も陳列されてゐて家人は此方をより樂しんだやうである。決して廣くはないがじつくり觀るには丁度よい大きさで、流石に見應へのある名品揃ひであつた。梅の大分咲き始めた庭園を一巡した後急ぎ早稲田に向かひ早稲田通りに車を停めた後夏目坂を上り中村屋で晝餉の後家人と別れ一如庵に往く。二時より例會。M氏の鹿の遠音、I氏の無住心曲、心に沁む音色也。余は瀧落を吹く。後の宴席には列せず辞して歸途に就く。夜ひとつ原稿を仕上げ、これで依頼された原稿はひとまづ書き了たことになる。