無形文化遺産

十一月二十九日(木)陰後雨
ユネスコ無形文化遺産にグラースの香水をめぐるノウハウが登録されることに決まった。登録に至る活動にほんの少し関わった身としてとても嬉しく、関係者に心よりお祝いのことばを送りたい。ルルーさん、ベダールさん、おめでとうございます。これまでのあなた方の苦労が報われたことを喜ぶとともに、グラースの町がこれにより、さらに魅力を増すことを願っています。香りが「文化」であることを、世界中の人に知ってもらうことは、香料産業のためではなく、匂いや嗅覚のすばらしさと力を認識してもらう可能性が広がるという点ですばらしいことなのである。香水を創るための、香料植物の栽培やそれから香料を採る工業、そして香料を混ぜる調香という名の技量、それらすべてがグラースという特別な場所と結びつけられることで「文化遺産」として認定されたことは、画期的なことである。この登録に向けた運動の主体であるコミッティーのメンバーになってくれないかという話を貰った際、わたしが勤める会社に相談したところ、上司は会社に何のメリットももたらさないからやるなら勝手にどうぞと言った。そのため、わたしは自費でグラースのシンポジウムに行くことになった。それはそれでいいのだが、香料業界にとっても喜ばしいことは明らかなこの登録に対し、会社の無関心さには驚くばかりである。創業者が100年以上前、そのグラースの香料会社で研修を受けられたからこそ、今の会社があることを忘れ、恩を恩とも思わぬ無粋な営利追求会社になり果てたこの会社に、正直未来はないのではないかと思っている。定年まで潰れなければそれでいいという思いである。