書簡を認む

七月四日(月)
夜嶺庵にて硯箱を文机に持ち出し、墨を磨つてKさんに昨日のお礼状を認(したた)む。富岡鉄斎の富士の画が透かしで入つた便利堂製の無地の便箋を用ゆ。口語体なれば平仮名のバランス悪く、書き慣れぬ事もあり思ひ通りには筆を運べず。変体仮名を用ゆればまだ様になるらむと思へど自重す。筆と硯を洗ひ終れば既に十一時半を過ぎたり。直ちに就寝す。