嶺庵茶話会

十一月三日(木)晴後陰
朝から掃除片付け準備を始め、まず十時半過ぎN子の両親叔父叔母一行四人を家に迎へる。皆初めての来訪であり、書斎飄眇亭や嶺庵、リビングなどを案内す。岳母は料理や花入れなどを運んでくれ、N子と倶に今日の料理と茶道具の仕上げを行ふ。昼前岳母を除く三人が去り、正午過ぎ料理を終へた岳母を駅まで車で送る。杉田で茶会があるといふ。家に戻り余もやつと着物に着替へ、玄関先に水を撒き、客を迎へる最後の仕上げを為す。茶花は薄と杜鵑。床には松の画をあしらつた蒔絵の香合と香木、軸は岡倉天心の書を掛けた。
二時過ぎ家を出で車にて北鎌倉駅に往く。二時半今日の嶺庵茶話会の賓客、東大教授T氏夫妻が到着し、車にて拙宅にお連れする。T夫人は着物で亀甲紋の帯が素敵である。四人中三人が着物である。まずリビングにて今日の次第を知らせ、嶺庵に降り薄茶を出す。点前は桑小卓、菓子は錦秋。続いて聞香三種。羅国と眞那賀、そして伽羅である。志野袋と火道具、銀葉入れの箱を方盆に載せた、正式にはない点前で、清源流とも隆志野流(たかしのりゅう)とも呼ぶべきものである。香満ちた処で吹禅として余が尺八古典本曲を吹く。大和樂、布袋軒鈴慕、松風、三谷清攬の四曲也。其の後懐石として酒肴を倶にす。酒は菊姫と黒牛を用意す。献立は下記の通り。特にお吸ひ物が好評なり。宴長けて八時過ぎ駅まで四人で歩き見送り、秋の日の午後を遊び暮らした茶話会を終へる。暫くしてT氏よりもてなしに対する感謝のメールを貰ふ。そもそも当初三月の十三日に予定してゐた茶話会が震災で延び、其の間にN子と知り合ふことで茶話会の中味が格段に充実できたのも何かの縁であらう。此の半年足らずは茶話会に向けた準備に意を用ゐることを中心に過ごして来たやうなものである。夜岳母に茶話会の為に器や茶道具を借り、また料理を用意してくれたことへの謝意を電話にて表す。義母の全面的な協力がなければ果たせなかつた事も多いのである。

懐石献立

  • 先付け からすみ 松風 隠元胡麻和へ
  • お造り 鯛昆布〆 鮭 鮪びんとろ 帆立貝柱
  • 煮物  椎茸肉詰め 湯葉 里芋 花形人参
  • 胡麻豆腐
  • ご飯 魚沼産こしひかり
  • お吸ひ物  生麩 鶏肉 しめじ
  • ちりめん山椒 ―京 はれま
  • 胡麻
  • 香のもの 長芋 宝漬 みぶ菜 −京 大徳寺大こう