鎌倉往還 

八月二十九日(水)晴
昨日思ひの他仕事が捗つたので、暑さで疲れ氣味でもあり、週の半ばの今日は会社を休む事とす。午前中は書斎で執筆、通信八十二号を書き始む。早めの中食をとつてから車で家人と倶に出て鎌倉方面に向ふ。十二所の明王院と光触寺を訪ぬ。供に小刹ながら面白き由緒のある佛像石像が存す。其の後報国寺に寄つた後浄明寺にあるN子の通ふ書道塾に赴く。原山先生に初めてお目に掛かり、余の落款印作成の依頼を為す。やつと冽仙の雅印を作る事になつたのである。其の後二時より三時半まで書道稽古にて、其の間余は先生の故御母堂が小唄の教室として使つてゐたといふ和室に通され、冷房の効いた涼しい部屋で持参の『ヴイルヘルム・マイスターの修業時代』を讀む。三時半稽古終り、他の生徒三名を加へて茶菓を喫して雑談。生徒の一人白金の東大医科学研を休職して現在円覚寺居士林にて禅道修行中のO氏と知己を得る。四時辞して生徒二名を鎌倉駅まで送りたる後帰宅。尺八練習、夕食の後ジムに行き汗を流し、シャワーを浴びた後讀書。『修業時代』上巻讀了。十一時半過ぎ就寝。