鎌倉散策

二月二日(土)雨、昼前より陰一時晴
七時過ぎ起床。すでに気温高く暖かし。朝食の後余はシヤワーを浴びる。八時半過ぎ三人で嶺庵に移動し蒲団を片付け聞香の用意を始める。まず百合根きんとんと抹茶を呈した後、香炉の灰を作る間に余は尺八を吹いて客人をもてなす。準備整ひ松籟他四つほど香木を聞く。I田さんは香道は初めてとのことで、興味深げなり。今日は伽羅初音が特によく聞こえて素晴らしかつた。I田さんは香炉や香道具、さらに二月になつて掛け換た宮島詠士先生の書軸や茶花、床の間の飾りものなどを頻りに寫眞機に収む。其の後二階に席を移すも雨止まず、十一時過ぎやつと家を出る。小降りの中出るも驛に着くまでに上り、再び傘を開くこともなく天気予報通りの気象となれり。北鎌倉に出で、まづ円覚寺に入る。気温高く雨あがりなれば乾燥もなく気持ち良き気候なり。三門、佛堂、居士林、方丈を家人も初めての拝観なれば説明しながらゆつくりと見て歩く。国宝舎利殿を遠望し、黄梅院まで上る。姿形良き梅の老木蕾をつけ開花の直なるを知る。居士林横から龍隠庵に初めて上るに寺域の俯瞰を得る面白さも然る事なれど、初めて白梅の花開くを見つけたるは、生まれも育ちも北海道のI田さんには殊に驚きと喜びの重なるもの也。円覚寺を出て横須賀線沿ひに歩いて途中晝食を取り、明月院に到る。円覚寺とは趣を異にすと雖も此処も名刹にて、初めて訪ぬる家人もI田さんも大いに気に入る。蠟梅の花盛りにて芳香馥郁たり。鎌倉街道に戻り、建長寺は三門を眺めしのみにて鶴岡八幡宮まで歩く。丁度宝物展開催中なればそれも見る。参道を下り小町通りを歩む。北鎌倉とは異なる観光地らしき雰囲気なるも、違ひが面白しとI田さんは楽しまるる様子也。駅の反對に出て御成通りからバス通りに出てこ寿々にてわらび餅と一茶を喫す。再び驛へと戻り電車で歸宅。珈琲を飲んだ後五時過ぎ車で出て羽田空港までI田さんを送り別れを告げる。蜻蛉帰りで家に戻り余は暫く午睡を為す。樂しき一日を過ごすを得たり。