袴、茶、鮎、黒眼鏡

六月八日(土)晴
朝臨書、入浴の後余のみ着物に着替へて家人と車で家を出づ。まづガソリンスタンドで洗車してからクリーニング屋に行き冬物を出す。其れから大船まで往き、コインパーキングに車を停めて電車で鎌倉に向かふ。此の日は紬の一重に黒に近い茶の帯、絽の羽織に白のパナマ帽を被り、やや強もてのサングラスといふいでたち。鏡に映すと我ながらヤクザの組長にしか見えない。驛で電車を待つてゐても周囲から人が遠のくのが感じられる程であつた。
大混雑の横須賀線を降りて御成通りの古着屋に足を運ぶ。家人が過日立ち寄つて手頃な袴を見つけたので、實際に見てみんとての事也。仙台平の絽の馬乘り袴で着けてみると長さも丁度良い。多少傷みはあるが物は良くしかも四仟伍百圓といふ安さなので購ふことにする。直ぐに驛に戻り空いた上り電車で大船に出で、再び車で家人の實家に向かふ。晝近くなりたるせゐか道路さして混雑せず、十二時半過ぎに到着。午前の茶の湯稽古を終へし門人の晝食取る処なれば合流して食事と為す。
食後茶の湯稽古、薄茶一囘濃茶一囘。主菓子は鮎にて旨し。三時過ぎ義妹も着いて倶に稽古を為す。稽古後着物を脱いで持参の洋服に着替へる。
五時前余と家人、義妹の三人は買物とて町田に赴く。小田急百貨店の催事場にて大分の竹細工屋の出店を訪ね、余の両親に贈る竹箸を購入。更に此の日は岳父の誕生日なれば義妹の家と共同で独逸ヱツシエンバツハ製のルーペをプレゼントとして購ふ。其の後眼鏡を誂へたしといふ義妹に付き合ひ何軒か眼鏡屋を覗く。此れが似合ふとかそれは変だとか、三人でガヤガヤと探すものの氣に入るフレーム見つからず。むしろ何氣なく手にしたサングラスが良く似合ひ余が褒めると安くなつてゐた事もあり買ふ氣になる。余も今のサングラスがやや人相を惡くすることもあり、幾つか試すと似合ふものがあり買ふことにする。さうなると家人も欲しくなつたやうで、三人で若者のやうに似合ふ似合はぬで笑つたり騒いだりしながら結局三人ともサングラスを買つて、夜になつたが構はず着けて歸る。驛まで迎へに來て呉れた岳父と、學校歸りに立ち寄つた中二になる義妹の息子はそんな三人を見て驚いてゐた。岳父母、義妹とその息、そして我が家二人の計六名で倶に夕食の後、歸宅。