茶話會

十月十四日(月)晴
六時半起床、近くの川沿ひの道を薄を求めに歩くも姿良きもの少なし。南天の葉の少し色づきたる、姿良きものを得て歸り、まづは床の花を生ける。岳母より昨日杜鵑、藤袴始め吾亦紅など幾つかの茶花を頂戴したのでそれと合せることにするも、もとよりすべてを生けるつもりはなく、結局可憐な杜鵑の蕾と南天の葉の先の鮮やかな紅葉を目の先にしてまとめた。



それから嶺庵の掃除、入浴をするうち昨夜の松風の出來が氣に入らずとて焼き直したものを持ち來たる岳母を車で驛に迎へに往く。岳母は其の儘居残つて茶道具や料理の手伝ひまでしてくれ晝過ぎ歸られたとの事。余は急ぎ一重の着物に着替へて一度お点前の稽古をした後十時半過ぎ一人で車にて出掛ける。澁滞を恐れて早めに出るも鎌倉街道さして混雑せず予定より三十分近く前に北鎌倉円覚寺駐車場に車を停め、北鎌倉驛改札にて待つこと暫しにて如正師と如覚到着。此の日円覚寺周辺観光客群れを成し、円覚寺の拝観料を払ふための並ぶこと四五分に及ぶ。未だ嘗て経験せざる賑ひ也。三人にて円覚寺をゆつくりと拝観散策。出でて線路際を歩み途中の食事処で輕食の後明月院に赴く。秋の花思ひの他多く咲くを愛でながら散策。再び円覚寺駐車場まで戻り車でお二人を拙宅にお連れする。
二階のリビングにお通ししてまづは家人による玉露の呈茶。煎茶道東阿部流の盆点前である。次いで同じく家人により志野袋による聞香とて眞那賀ひとつ、伽羅二種を聞いて戴く。先生には匂ひはよく聞こえなかつたやうで殘念なるも、如覚は大いに興を示す。今回の伽羅、銘さゆり葉はお香の先生に頂戴せしものにて家人も余も初めて聞くもの也。
聞香を終へ一度下階に降りて戴き、書斎飄眇亭にて雑談の後嶺庵に移り、吉野棚の総飾りにて余が茶を点て、一服して頂く。主菓子は若柳製秋の野、床は象山の楓葉絶句、花入れは亀甲竹、香合梨地蒔絵、釜は敬典造の筒糸目、遠山の風炉先に水指は摸安南、宗景作武蔵野蒔絵の棗、茶碗は長次郎写の黒樂、茶杓は寛道作銘秋の聲、建水は曲の溜め塗り、蓋置は六瓢、菓子器は乾山写を用いた。如正師には茶碗を氣に入つて戴き面目を施した。



四時半過ぎやつと會席となる。家人の心ばかりの手料理にて、酒は黒牛二種と菊姫古酒を用意。先生には黒牛の常温を好まれたやうである。四人で會話も愉しく盃を重ね、予定よりやや遅く八時半過ぎ驛への道の途中までお送りして、充實ひとかたならぬ嶺庵茶話會を了へた。誠に樂しく過ごせた一日であつた。如正師、如覚にも存分に樂しんで戴けたとしたら幸ひである。