竹・神・露伴

六月一日(土)晴後陰
昨夜大して飲んだ訳でもないのに朝眠気と頭痛あり。入浴して九時前家を出で十一時より一如庵にて尺八稽古。大和樂、布袋軒鈴慕、流し鈴慕、松巌軒鈴慕と三鈴慕をさらつた後時間が余つたので瀧落を一緒に吹いて戴く。辞して地下鐡を乘り繼ぎ上野広小路で降り、徒歩上野公園を縦断して國立博物館前に到る。程なく家人も來たり、本館前の木陰のベンチにて家人持参の辧當を食す。
其れから平成館にて「大神社展」を観る。ずらりと國寶を並べた展示は壓卷であつた。鳥獣葡萄鏡や北野天神縁起繪卷の辺りは特に人が群がつてゐた。しかし何と言つても今囘は神像を一度に澤山見られたのが一番の収穫であらう。佛像に比べ余り知られることも少なく見る機会も少ない神像を此れだけ集めて展示する機會はさうはないと思はれる。明治以降の廃佛毀釈や國家神道を経た神道とは全く別の、日本人の神との繋がりを再認識させてくれる點に於いても貴重な展示であつた。
博物館を出て藝大の横を通つて谷中に向かふ。途中にある骨董屋は潰れたのかシヤツターが閉まつたままになつてゐた。谷中墓地に入り初めて五重塔跡を訪ふ。高橋お傳他著名人の墓を幾つか見た後、墓地周辺を散策中に偶然幸田露伴先生寓居跡の案内板を見い出す。成程五重塔を日夜目にすることの多かつたであらうと思はせる一角であつた。谷中銀座から六阿弥陀通り経由でよみせ通りに到り、延命地蔵にお参りしてから古書肆ほうろうに入る。草森紳一勝海舟の眞實』を二仟百圓にて購ふ。其れから早めの夕食を蕎麦屋にて取り、再びよみせ通り谷中銀座を辿つて日暮里に至り、京濱東北線にて帰路に就く。夕食時熱燗を呑みたる故か車中爆睡。歸宅後買つたばかりの草森の本を讀む。