月末猛暑

八月三十一日(土)晴
いつも通り六時半に起き、習字をしてから入浴、朝食、あまちゃんと進み、八時半過ぎ家の近くからバスに乗って鶴岡八幡宮に赴く。参道で骨董市が開かれると聞いたので行ったのだが、規模は大江戸に比べると小さく、また安めのものが多い。曲げ物の建水、陶磁の蓋置に、竹で出来た小さな虫篭形の香合を購う。全部で三千円の買い物だから安いものだ。しかし、カンカンの日照りと暑さには参った。鎌倉駅まで歩き、電車で港南台に出て昼食をとったのだが、その際熱中症のような症状が出たくらいである。一時から港南台シネサロンにて『風立ちぬ』を見る。
もっと零戦が出てくるかと思っていたがそれ程でもなかった。柳田邦夫の『零式戦闘機』や堀越二郎の『零戦−その誕生と栄光の記録』を読んでいただけに多少残念ではあったが、十分楽しむことができた。内田先生が言っていたように、かつての日本の美しい光景が細密に描かれた画面には、ため息が出る。それは、清潔さとか都会的なものとは無縁なのに、懐かしくも真面目でゆったりとした、かつて在り、今はもう永久に失われてしまった日本の空間の広がりと時間の流れなのであろう。それを胸に迫る迫力で再現したアニメーションの美しさと、効果音や音の再現の素晴らしさは特筆すべきことのように思う。零銭のエンジン音からクレッソンを頬張る音に至るまで、耳福というべき快楽を味わうことの出来た喜びは大きい。風の音、雨の音、地響きや火炎から生じる音など、すべてが今までの映画の質を越えていたように思う。唯一つ、蒸気機関車に引かれた客車の車輪がレールの繋ぎ目で起こすガタンガタンという音が、本来もっと大きな音であった筈の蒸気機関ラッセル音よりも大きめに響いていたことはちょっと残念であった。本物を知らない観客に対する「分かりやすさ」を優先したデフォルメのようにも思えたからである。視覚の方が、本来アニメの技法であるデフォルメを拒否するかのような細密画化、テクスチャー表現の極点へと向かっているだけに、主題の飛行機からは外れるものの、蒸気機関車のリアリティはもう少し尊重しても良かったのではないかと思う。電車や路面電車の音の再現は心地よいまでに完璧であったのだから。