四天王寺

九時過ぎ新大阪に着き、地下鉄で天王寺に往く。徒歩にて四天王寺に至る。彼岸の時期に加へ二十二日は聖徳太子命日とて境内周辺参拝客、出店等で雑踏甚だし。かつ此の日は異例の暑さにて疲労困憊す。抑々四天王寺参詣を思ひ立つたのは過日「説経節」信徳丸を読んでよりのことで、一度訪ねんと思ひ居たるところ偶々大阪出張の出来したれば、早起きして当日の午前を参詣に費やさんとするもの也。石ノ鳥居を潜り極楽門より境内に入り、中心伽藍の堂宇を眺め、太子殿に参じてから愈々石舞台に向かふ。河内高安の長者の子として生まれた信徳丸が、信貴山にて修行中父親に頼まれ二月二十二日の六時堂聖霊会に稚児として舞楽を舞つたのがこの石舞台である。今は亀の池と呼ばれる蓮池に掛かる橋上に設けられた文字通り石で出来た舞台にて、日本三大石舞台の一といふ。その舞の折に舞台より信徳丸は和泉の国蔭山長者の娘乙姫を見初めて恋に落ち、其の後継母の呪ひで失明、癩病となつて捨てられるのが皮肉にも其の石舞台の正面に立つ六時堂なのである。往時を偲ぶ便とてなきに等しいが、此処があの四天王寺と思へば感懐無きにしもあらず。其の後本坊庭園を拝観し、乙姫が信徳丸に再会する念仏堂の跡と思はれる阿弥陀堂を訪ね、参詣道の食堂にて鰻重を食して大阪支店に行く。

四天王寺の石舞台】