昔のアイドル

全く突然で何の理由も思ひ当らぬことなのだが、朝起きてすぐに「三木聖子」といふ名前が頭に浮かんだ。わたしが中学から高校にかけての頃に活躍してゐた大昔のアイドルの名前である。わたしは何故か好きだつたが、本当に其の名前なのかも定かではなく、早速ネツトで検索してみた。今は全く便利な世の中になつたものだとつくづく思ふ。プロフイールや生年月日はもちろん、当時のテレビの映像や「あの人は今」的な番組で出てきた其の後の姿までたちどころに見られるのである。当時の映像を見ると、よくあることではあるが、記憶の中にあつた姿の方が遥かに美化されてゐたやうで、ああかういふことだつたのだなといふ感慨を覚へる。勿論今見ても可愛いと思ふし、歳を重ねた姿も普通の人に比べれば美しいのだが、思春期の異性への憧れといふものは大抵実際の姿をもとに過剰に理想化して其れが記憶に残つてしまふのであらう。今となつては、何故此の人のことをドキドキする程好きだつたのか理解に苦しむ。
ところで、検索結果を示す画面には三木聖子の唄った「まちぶせ」といふ曲をカバーしてヒツトした石川ひとみも出てゐて、さう言へばこんな人もゐたなあと思ひ開いて見ると、彼女が自分より年上であつたことを知つて驚く。しかもわたしが在学中の1982年の早稲田祭にも来たらしい。そんなこともあつたかなといふ微かな記憶が蘇るが、検索を続けて其の石川ひとみが後に病気になつて半ば引退の形になつたものの今は元気で芸能生活を続けてゐることを知る。
其の事を知つたのが読売オンラインの連載企画の「青春グラフィティ」といふコーナーなのだが、此れがまた実に懐かしい人たちの目白押しなのである。2008年にアグネス・チヤンから始まつて、石川ひとみ荒木由美子石野真子、リリーズ、太田裕美麻丘めぐみ相本久美子伊藤咲子水沢アキ…といふアイドルたちの、デビユーのきつかけや全盛時の様子や其の後の転機などをインタビユーをもとに各人四回連載で追ひかけてゐる。当時の写真と最近の様子が見られるのも楽しく、現在五十歳前後の人たちにとつては、若かりし頃に一度は夢中になつたことのあるであらう、当時本当に可愛かつた女性たちである。
之を読むと、今になつて、ああさういふことだつたのか、とか、そんな事があつたのかといふ驚きがある。常に芸能界の表舞台にゐた訳ではなくいつの間にかテレビで見かけなくなつた人も多いが、其の背後に病気による挫折といふやうな凶事が多かつたのを知り、しかもインタビユーを受けただけあつて、今はしつかりと明るく充実した日々を送つてゐるやうで、中々感慨深いものがあるのである。同年代の人には一読をお勧めする。あの相本久美子が小奇麗なおばさんになつてゐるのを見ると涙が出さうになるが…。歳月といふものの残酷さを感じるとともに、あの頃の気持ちが蘇つてすつと胸の中に風が吹くのである。