虚無僧研究会

十一月二十三日(水)陰一時雨
八時前家を出で地下鉄牛込柳町より徒歩法身寺に至る。庫裏にて昼飯代懇親会費六千円を納め中に入る。此の日は虚無僧研究会三十周年記念の虚無僧追善供養尺八献奏大会である。十時より開始。昼食の休憩を挟んで五時半過ぎまで計四十六曲が献奏さる。これ程一時に諸家諸流の演奏を聴くのは初めてにて、途中心地よくうとうとすることはあれどほぼ全曲を聴く。如道会は終りに近い四十二番目に布袋軒鈴慕を十二名の連管で献奏。余も勿論加はる。
余は初めての参加なるも、実に興味深い団体なるを知る。如何にも尺八吹き然とした白髪蓄髯の老人から剃髪した外国人、着流しもゐれば紋付袴や作務衣、坐禅衣、輪袈裟を着けた者もゐて、とても平成の世とは思へぬ古色を感ずる面々である。尺八を吹くほどの老人の面構へも中々堂に入つた爺ぶりを示し、六十代でもまだ若輩扱ひされかねぬ雰囲気である。会長は普化宗との縁浅からぬ法身寺の和尚小菅大徹師にて、庫裏の二階には月海文庫とて尺八関連の史料資料を蔵す。演奏のみならず不明なことの多い虚無僧の世界に対する興味関心の高い研究肌の会員も少なくないやうである。如道会しか知らずにゐた余にとりては何とも不思議な世界にて、また諸流の奏法や音色の違ひ、全く未知の曲などに接して思ふところもあり、有意義な一日であつた。
六時前から懇親会となり、多少なりとも他流の諸先生と話をする機会を得る。其の後如道会の諸先輩と二次会に近くの中華料理店に行く。此処に於いて内輪の忌憚のない尺八談義を聞き、如道会の追究する尺八音楽の正統なることを改めて認識す。他流を知つて初めて分かる自分の流派の良さといふものがあるのであらう。帰宅十一時を過ぐ。