雑感

八月七日(火)晴
最近は近現代史の本をよく讀んでゐるが、その結果分かつた事は政治家の回想録ほどあてにならぬものはないといふことだ。事実誤認といふよりは真赤な嘘、捏造が多く、それも弁明や言ひ訳の為だけでなく手柄話や自慢話も嘘八百を並べたてて恥じるところがない。いづれ史実が明らかになれば嘘や矛盾がばれるのは目に見えてゐるのに、どうしてそんな事が書けるのか不思議である。回想とは異る記述の内容を含む日記まで残されてゐる事もあつて、何をか言はんやである。まあ、それくらゐの嘘や自慢を得得と書く神経がなければ、そもそも政治家になどなれぬといふことなのであらうが。

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五輪で日本の女子サッカーチームがフランスに勝つた。それはそれで喜ばしいことではある。しかし、それを伝へるテレビや新聞、ネツトのニユースの表現・言説には首をひねりたくなるものが多い。例へばフランスがPKを外したのは、日本チームの勝ちたいといふ気持ちが勝つてゐたからなどと言ふ。本当にそんな事を考へてゐるのであらうか。また、後半の明らかな劣勢を「デイフエンスを頑張つた」などと言ふ。この二例は要するに精神論と、都合の悪い事を良いやうに言ひ換へてゐる訳で、これでは戦時中の報道姿勢と同じではないか。何事も精神論で済ませ、現実を都合よく表現し替へて、冷静な判断や思考を停止することは、日本人の心に染みついた、もはや拭ひ去れぬ性向なのであらうか。五輪の報道は極めて卑近な例であり、ことさら噛みつく必要はないかも知れぬが、此処に端的に現はれただけで、かういふ傾向がいまだ日本中に蔓延してゐるやうに余には思はれてならず、其れが何とも嫌な感じをもたらすことを如何ともし難い。