安保反対

一月二十二日(火)雨後陰
平岡正明著『人之初』読了。平岡師匠の自伝だが、幼少の頃から始めて一九七〇年代初頭で終っている。未完ではあるが中々面白かった。六〇年安保の際の一・二歳の齢の違いが、経験と哲学において大きな隔絶を生むものであったこと、即ち安保前後の世界の変化は、当時を知らない我々の想像を遙かに越えて大きかったもののようだ。安保闘争時の左翼闘士としての師匠の姿が目に浮かぶ。才気と侠気に溢れた美青年平岡正明である。もっとも、当時のアカ学生たちのやっていることは、代々木との関係や大学内外での内紛と権力闘争、集合離散含め、要するにヤクザの出入りと大して違いはない。師匠にとって浪曲やヤクザ映画の任侠と暴力の世界が近しいものであったことの前提を少しは理解できたように思う。それにしても谷川雁を始めとした左翼くずれのインテリほどタチの悪いものはない。労働者を搾取する資本家のうち、最初から右寄りならまだ仕方ないと思えるが、若い時共産主義に奉じておきながら後に掌を返したように冷酷な権力者になる連中には本当に虫酸が走る。ただ、田中清玄にはちょっと興味があり、その自伝は読んでみようかと思っている。それにしても師匠の、思いもかけぬところから話し始めて見事に主題に持って行く手さばきや、歯切れのいい文体・口調はまったくの名人芸だ。しばらくは師匠のものを読むことが多くなりそうである。とりあえず『長谷川伸メリケン波止場の沓掛時次郎』を読み始める。