古文書解讀

二月三日(月)晴
きのふけふと古文書の解讀を續けてゐる。と言つても百年程前のものだが、細かい崩し字なので讀み解くのに思ひの他時間がかかる。ひとつは甲斐荘楠香がスイス滞在中に日本に送つた繪葉書で、一九一二年のもの。候文の少しくだけた感じの文體はまだしも、片仮名による表記や旧字體が中々曲者で、当事者なら分かる固有名詞などが特に讀み取れない。もうひとつは同じ年に仏蘭西人か瑞西人の手になる仏蘭西語で書かれた化学合成の指示書のやうなもの。當然化学用語が多いので難儀するが、此方の方がパズルを解くやうな面白さがあるし、少なくとも文法や文體そのものは現在と變はりはないので、綴りさへ讀み解ければ文意は取り易かつたりする。日本語の方が、此の百年で送り仮名の表記から文體、さらに漢字や用語までかなりの變化があることがよく分かる。其れでも、自分の會社の創業者が百年前に何を見てどう感じてゐたかが、肉声を聞くやうに感じ取れるのは興味深いものである。明治の人の志や気概も見てとれるし、會社や甲斐荘家の理解がなければ得られぬ機會でもあり、少しでも史料的価値のある情報を讀み取りたいと思ふ。
繪葉書の方はPDFにしてあるので、會社の大きなモニターで拡大して見られるので助かつてゐる。仏蘭西語の方は小さな薄い紙片なので現物にルーペを使つて讀んでゐる。日曜歴史家のやうなものであらうが、かういふこつこつとする作業も樂しいものである。