フランス料理

 人を招いての会食を考えていて、店を探す中で昨日鎌倉のフランス料理店に行った。家内が何度か行って美味しかったというので、ほぼその店にするつもりで、一応味見と下見を兼ねて昼に食べに行ったのである。鎌倉駅から歩いて25分ほど離れた道に面したその店は、ミシェル・ナカジマという名前で、バス通りに面した何の変哲もないマンション風の建物の一階であった。思っていたのとまず外観が違った。何故か勝手に西洋館風の一戸建てを想像していたのである。中に入ったとたん、あっと思った。白で統一した店内は一見小ぎれいだが、ただ無難なだけで、センスや面白みは感じられない。通された席も壁側の二人席が工夫もなく並んでいる中のひとつで、左隣にはケバケバしい厚化粧の中年女性と、何か事業をやっているらしい、自信満々な口ぶりでワインの蘊蓄を語る初老の男、どう見ても夫婦ではない。右隣は若いカップルで、途中で男の方がプレゼントを取り出していたから、特別な日の記念でランチを奮発した感じのふたり。何とも、嫌な客層の間に挟まれたのである。

 店内を見回しても、気どっただけの趣味の統一を感じないインテリアの中に、やはり小金持ちらしい気どった客層が散らばっている。第一印象は最悪だが、まずは料理である。ランチのコースをとり、ワインはシャブリをグラスで頼んだのだが、ウェイターが赤ワインの入ったグラスを持って「シャブリでございます」と言うから、呆れて「シャブリを頼んだのですけど」と怪訝そうな顔をすると、「失礼しました」と言って、引っ込んでしばらく後にやっと白ワインを運んで来た。給仕のレベルは最低である。

 料理の方も、酢が効きすぎていたり、奇を衒っていろいろな素材を盛り込み過ぎて、味や触感がばらばらになっていたりと、残念なものが続く。家内も、前に来たときと全然味が違うという。私は食通とかグルメを自称したことはないし、そもそも外食が嫌いなタチだから、批評をするつもりはない。ただ、感想を述べるだけだが、さすがにこの料理で駅から離れたこのロケーションに人を呼ぶ気はなくなっていた。それに、メニューの書かれた紙片に、カード支払いの場合5%の手数料を取ると書いてあるのも気に入らない。消費税2%上がるのだけで世間が騒いでいるのに、今どきカード支払いくらいでそれはないだろう。

 凝り過ぎて統一感を失った前菜の後、冷製スープはなかなか美味しかったが、ここでもあさりが余計であった。メインの魚料理は合格点。家内のとった鴨も悪くなかった。ところが、デザートはチョコレートムースを紫蘇のゼリーで巻くという暴挙に出た。紫蘇の嫌いな私はせっかくのデザートを残し、シナモンなどのスパイスの効きすぎたアイスクリームもさほど好きにはなれなかった。しかし、極めつけはエスプレッソである。味もよくなかったが、一緒に持って来たのはグラニュー糖で、私がブラウンシュガーはないかと聞くと、ないとの答え。エスプレッソを出すのであれば、ブラウンシュガーの角砂糖くらい用意すべきであろう。店の意識のレベルの低さが明らかで、心底がっかりしてしまった。まあ、何から何まで、私の好みに合わない店であった。ちなみに、左隣の老カップルはお勘定の際「僕はいろいろフランス料理を食べて来たが、今日のはとても美味しかった」と宣っていた。テレビの取材を受けたこともあるという資産家らしいが、この料理で満足できるとしたら幸せなことである。

 店のロケーション、外観、内装、客層、接客、料理、サービス、ことごとく私の意に沿わない店というのはある意味珍しい。ひとつでも気に入らなければ、そもそも行かないからである。私は食べ歩きなどする方ではないし、外食にお金をかける方ではないから、余計にシビアな見方になるのかも知れない。それにしても、残念な店であった。