寺門と国宝

十月二十八日(木)雨
午後三井寺に往く。寺門として、また謡曲三井寺」の舞台としても有名な園城寺也。大学入試の日本史で其の名を知つてより此の方長い事訪ねたく思ふも果たせずにゐたものなれど、竟に念願叶ふ。山門前の精進料理店風月にて「三井の晩鐘」なる鐘の形の容れ物に刺身湯葉など盛られた定食を食し、冷たい雨の中境内を歩む。近江八景の一、三井の晩鐘として知られる釣鐘を三百円払つて撞く。流石に余韻馥郁たり。写真に残す視覚の記憶だけでなく、折角訪ねた処は耳にも鼻にも其の記憶を留めて置きたき気持ちが最近頓に強まり、かうした機会を捉へて長く聴覚の記憶に残さんことを期すのみ。観音堂より観る琵琶湖の眺望、往時を偲べば絶景と思はるるも、現実の景色には雑多な建物視界に多く入り佳景とは言ひ難し。其の後ほぼ隣接して建てる大津市立歴史博物館に赴き「国宝への旅」展を観る。展名に背かず市立の博物館とは思へぬ程国宝の多い展示にて、三不動の一として有名な三井寺秘仏黄不動の他、最澄入唐の際の通牒や最澄の自筆書簡、また円珍に大師号を諡号した際の勅書など興味深き物多し。特に最後の勅書は筆跡の格調極めて高く他を圧倒す。後で出品目録を見るに小野道風筆とあり、さこそと思へて感心する事頻りなり。地方の博物館としては異例の貴重な展示の数々を大いに堪能して大津を後にす。
此の日プロ野球ドラフト会議あり、偶々ホテルの部屋に戻るやテレビで其の模様が放映され思ひがけず籤引きの顛末を見るに、渡辺監督の感激や星野の面憎い様など監督の人柄やら悲喜こもごも現われて中々面白きもの也。斎藤・大石ら早大三投手一位指名は快挙と言ふべし。