山羊鹿

田園都市線の踏切で、警官の指示で一端座りこんで電車をやり過ごした後わたしは走り始めた。しばらく走ると先に二頭の大きな動物が同じ方向に走つてゐるのが見える。最初犬だと思ひ嫌な感じがするが、一頭が立ち止まつたのを見ると鹿のからだつきに山羊の頭をつけたやうな異形の動物のオスとメスである。近づき過ぎないやうゆつくり其の後を追ひかけるやうにして走り続ける。しばらくして道路に沿うて流れてゐる浅瀬の小川に、二匹の猪らしい動物がゐるのが見えた。すると、走つてゐた二頭は其れを見つけて浅瀬に降りて行き、怯えて立ち竦む猪に噛み付いて食べてしまつたのである。ところが猪には毒か何かがあつて山羊鹿の方も死んで水の中に沈んでしまふ。ここで小川はいつの間にか洗濯機に変つてゐて、山羊鹿は其の儘洗濯・脱水・乾燥されてしまつた。已む無く洗濯機の蓋を開けると動物臭い匂ひが残つてゐて嫌な気持ちになる。しかし、其の儘にも出来ないので洗濯機を傾けて屍骸を取り除かうとすると、中に残つてゐたのは骨だけであつた。わたしは「ああ、遠心分離が働いたのだな」と思ふ。