白馬の騎士

わたしが精神的にダメージを受け窮地に陥つたとき、必ず現れてはわたしを励まし、一緒に居ることでわたしの心を安定させてくれるばかりか、楽しい時間を過ごして最後には前向きな気持ちにさへさせてくれる、正に白馬の騎士のやうな存在がわたしには居る。今回もわたしは彼女に助けを求め、土曜の夜に食事を倶にして、腫物が落ちたやうに今わたしは活力を取り戻しつつある。

四月十六日の土曜、午前中尺八の稽古の後横浜で買物をした。服を買ふのは本当に久しぶりのことで、ジヤケツト、パンツ、靴を購入。ウエストは何と73センチになつてゐた。細身の黒のパンツは思ひ描いた通りのシルエツトで、グレーのジヤケツトも計つたやうにからだにしつくりと馴染む。一旦家に帰つて買つたばかりの服に着替へていそいそと出かける。まるでデートに出掛けるやうな気分である。
元町のブラツスリーで我が白馬の騎士と食事。会ふのは二年ぶりで、丁度失意のどん底に沈んでゐた時に会つたのが最後である。あの時もわたしは随分と救はれたのだが、其の後少しずつわたしの精神状態が安定して順調になり始めると、会ふことも稀になつていつの間にか連絡も途絶へてしまふ。それなのに、苦しくなると真先に連絡をするのが彼女なのだ。其の度嫌な顔もせずに会つてくれる、大切な友達である。男女の仲になつてゐないから続く関係なのかも知れないが、わたしにとつても恐らく世間的にも、奇跡的な稀有な友情だらうと思ふ。しかも彼女は美しく多才であり、独身だがもてもてで言ひ寄る男が後を絶たないといふ有様なのである。
シヤンパーニユでまずは乾杯。久しぶりのシヤンパーニユが五臓六腑に染み渡る。其の後直ぐに赤ワイン。実は彼女はワインの持込ができる店を選び、わたしのためにシヤトー・ヌフ・デユ・パープを持つて来てくれたのである。フランスでも食べたことのないくらゐ美味しいパテとバゲツトでワインを愉しむ。メインでは絶品のオマール蝦と蟹のスフレを冷えた白ワインで平らげ、やはり美味いものの力と友情のおかげか、其れまでの意気消沈が嘘のやうにわたしはよく食べよく飲み、そして何より昔のやうに熱く語つてゐたのである。
わたしは、直前までの陰鬱を振り払ひ、自分本来の姿に戻りかけた気分になつた。そして、恐らく根拠もなく過剰なまでに自信を取戻し、この先やるべきことが明確になつてやる気が漲つて来たのである。何といふ単純な人間であらうか。
此のブログの前回分を読んで心配を寄せて頂いた諸兄諸氏淑女の皆さん、申し訳ございませんでした。わたくし、何とかなりさうです。今後はかなり格好つけて行かうと思つてゐます。修行僧見習ひ時代は終りました。取り敢へず、今後暫くは仕事に邁進し、様々なことを試みつつ人生を愉しまうと思ひます。