其一到着

十一月三十日(水)陰
退社後藤沢の世界堂にて額を壁に掛けるフツクを数種購ひて帰る。尺八練習、夕食の後やつと宅配業社が来て額装ふたつを置いて帰る。鈴木其一の画だが、もちろん本物ではなく細見美術館所蔵品の精密複製画で、箱入りの認定書が付いてゐる。「雪中竹梅小禽図」のうち梅と「白椿に藪柑子図屏風」の二点。さつそくリビングの壁に掛ける。
想像してゐた通り部屋の雰囲気にぴつたりと馴染み、しつくり来るので今までそれらがなかつたことの方が不思議なくらゐである。雪に梅の画を今年の三月二十七日に京都の細見美術館で初めて見て気に入り、その場で複製画のカタログを貰つて来たのだが、まさか本当に買へるやうになるとは思はなかつただけに、其の後今まで約八か月の己が身上の変転を思へば感慨深いものがある。
描かれた色かたちだけでなく大きさも窓や他の額、そして壁面の空白部分との心地よいリズムを生み出し、同じ視界に入るクリムトの画とも何ら違和感を生じない。下手な掛軸を買ふより遙かに高いのだが、結婚記念といふ意味も込めて奮発した甲斐があつた。大満足である。家の面積こそ今まで通り狭いままであつても居住空間のクオリテイは確実に上がつてゐる。毎日家に早く帰りたくなる所以である