柴又茶会

三月二十五日(日)晴後陰一時小雨
六時に起き入浴の後着物に着替へN子とともに八時前家を出づ。日暮里まで京浜東北で行き、京成に取り換へ高砂経由柴又に至る。義妹Kの姿既に在り。駅前に寅さんの彫刻あり。写真機に収む。

其の後倶に柴又帝釈天として知られる題経寺まで歩む。本堂にお参りを済ませ庭園の入口に廻る頃N嬢現る。此の日此処帝釈天にて第124回葛飾区華道茶道会春季大会が開かれ、岳母の社中で茶道の稽古を積むN嬢が知り合ひから本大会の茶席券を貰ひ余等が誘はれた次第。まだ二十代のN嬢含め四人とも着物にて、列席の中では此れでも若い方である。
まず奥の間で開かれるN嬢の知り合ひの居る表千家の茶席に入る。立派な床の間があり、高名な作り手による茶器の類を見る。会記も閲覧すれど記憶に留めず。

其の後庭の中を通り、不答庵てふ茶室でやはり表の茶席有れば並ぶに小間なるに人多く進まず都合二時間近く待たさる。其の間晴れてゐた空が俄かに曇り雨粒が落ち寒くなるなど苦難あり。躙り口よりやつと入つたと思つたら男性の故か正客に座らされ冷や汗を掻く。しかも濃茶にて慌てて懐紙を畳む始末。N子の指示と助けで正客らしき口も幾つか挿む。恥を掻くのも勉強か。流石に茶室なれば雰囲気はあれど軸や茶道具の類余り余の好みに非ず。ただ、古材を使つた炉縁には趣きあり。
帝釈天の庭
不答庵の軒先
更に場所を移して裏千家の茶席に行くに、此方は三分待つて入る。前二つが表千家でいつも見慣れてゐる所作と違ふので、此処に来てやつといつも通りの作法でほつとする。手際のよい差配で小気味よく進む。
了りて急ぎ横の茶席に行くに此方も今始まるとの事で急ぎ入る。広間には見知らぬ道具並び、席主は松嶺庵花月流の方で煎茶道の茶席なり。彼の茶道には初めての参席にて興味深し。道具や所作も珍しいが、とにかく出された一煎目の茶の旨さに驚く。正に玉露の旨みにて、菓子を頂いた後の二煎目は爽やかな風味にて実に心地よい組合せ也。床の花も文人調で簡素な茶花より余の趣味にも適ひ、結界による室礼や道具の類も中国趣味を感じさせながらも悪くない。花は予想通り嵯峨御流ださうで、煎茶道の総本家萬福寺管長村瀬玄妙師による軸も颯爽とした味があり、線香を焚くところなども面白く、N子ともども俄かに煎茶道に興味を覚え始める。今後かうした茶席に煎茶道が出てゐたらまた是非参席したいものである。


此の茶席を出るに既に三時半を過ぎ本日の茶会は終了となる。昼食は取らざるも茶菓にて空腹も覚えねば其の儘帰ることにす。帰宅六時。