文樂の日

五月二十六日(日)晴
九時過ぎ家人と倶に着物で外出。半蔵門で降り徒歩国立劇場に到る。十一時より文樂五月公演第一部を観る。演目は『一谷嫩軍記』より二段、そして近松曽根崎心中』より三段である。最初の二段の後の休憩時間に、切符の手配をしてくれた洋酒メーカーS社のT氏が余等を樂屋に連れて行つてくれる。暖簾の掛けられた樂屋が並ぶ廊下をT氏は旧知らしい演者と挨拶を交しながら進む。そして、人形の置かれた部屋に入つて人形遣ひの吉田勘彌さんに頼んで説明をして貰ふ。頭の動かし方やら手の動きなどの説明を受けた後余は人形を持たして貰ふ。結構重い。人形を手にした余と勘彌さんを寫眞に撮つて貰ふ。感激である。人形は舞台で見て感じてゐたのより小さい。舞台まで見せて貰つた後厚く禮を陳べ、急ぎロビーに戻り十分で持参の辧當を食してから後半を観る。久しぶりの近松は矢張り文章が素晴らしいし音樂も良く、お初の身振りは泣かせるものがある。文樂を堪能した一日であつた。