名香鑑賞會

五月三日(日)晴
宿にて和服に着替へ車にて名古屋市徳川美術館に赴く。名香鑑賞會に参席する爲也。九時半受付に行くもほんの僅か遅れて第二席となれば、待つ間まづ徳川園を散策す。十一時前より山ノ茶屋にて薄茶席に入り喫茶。岡谷家旧蔵黒織部の沓茶碗を見る。次に餘芳軒にて名香席に臨む。点前は蜂谷宗苾若宗匠にて、六十一種香の内「花散里」、一木四銘の一「初音」及び徳川家康所持の羅國無銘を聞く。花散里の奥床しさと羅國の古武士の如き澁みは特に印象強し。
次に美術館講堂の椅子席にて菖蒲香の組香に参席。四の香「アヤメ」を試しで聞いた後出香の五種類の香を聞き、アヤメが何番目に出たかを當てる遊びである。家内が正客の位置に座り、余が次客であつた爲、どちらかが當てれば記録は我が家のものになる訳である。試しのアヤメは甘味と酸味があつて名の如く清らかな香りであつた。出香の最初は酸味が強く梅のやうな香り、二番目は艶つぽい香りで倶に違ふ。三つ目がアヤメに近いがまだ斷定せず。四番目は割によくある伽羅の香りで、最後も明らかに違ふので結局三番目をアヤメにして記紙を出す。結果正解はやはり三番目で十人中當てたのは三人であつた。家内も當ててゐるので記録は我が家の手に落ちた。日付も入るので記念になるので嬉しいものである。
其れから寶善亭にて点心を食す。八橋型の木の器を用いた中々氣の効いた料理であつた。食後徳川美術館内を觀て廻る。國寶の初音の調度や尾張徳川家傳來の名香木などを觀る。三時前徳川美術館を出で一路中央高速を走つて長野縣上田に至り投宿す。蕎麦を食して此の日も早くに寝る。