ヤクザと詐欺師

一月十六日(火)晴
大阪の福島天満宮の夏祭りに来ている。お気に入りのひとり菜々絵ちゃんと一緒である。菜々絵ちゃんは偶々出張でこちらに来ていたので私が誘った。コンチキチキのお囃子が聞こえる中私は彼女を連れて境内に入って見物しようとする。すでに周囲の商店街や出店の人たちもコンチキのリズムに合わせて体を揺らしたり、大声で囃し立てたりノリが最高潮に達している。私はこのお囃子こそ大阪人のノリの良さの原点なんだよと菜々絵ちゃんに説明する。ところが境内に入ったとたんお囃子が止んで人が帰って行く。ちょうど終わったところらしい。舞台の上からおばさんが私たちに「どうでした」と聞くのだが、見ていないので苦笑するばかりである。時計を見ると八時を過ぎている。八時までだったかも知れない。私は菜々絵ちゃんに食事でも行こうかと聞くと、食べて来ましたという。明らかに、出張先でやむなくつきあったものの、おじさん相手でつまらなそうな顔をしている。じゃあ焼酎を飲むから三十分だけつきあってよと言ってタクシーを拾う。タクシーは大阪の街中を疾走するが、いつの間にか客は私ひとりで、大きなドーム型の競技場やアーケードなど、見た覚えはあるが何処だかわからない所である。渋滞したところでは前に明らかにデザインの優れた小型車が走っていて、見ればプジョーの一人乗りのようで、今度はあれもいいなと考えている。そうこうするうちタクシーは一人乗りの馬車か人力車のようなものに変わり、運転手がそれを引いている。大通りから横丁に入って私が渡した住所のメモを見ながら、おかしいな、この辺りなんだがと言う。見ればモルタル二階建てのほぼ廃屋に等しい古びた建物で、人の住んでいる気配はない。すると運転手の犬がさっと飛び出して階段を駆け上がり、二階の窓からあれを見ろとでも言いたげに首を振っている。その先を目で追うと通りの反対側の塀に4・47・25・8と何かの暗号のような数字が書かれている。それが指示なのかも知れない。番号をメモしてくださいと運転手が言うので手帳とペンを出して書こうとするが中々うまくいかない。手間取っているうち隣のアパートから黒いだぼシャツを着たヤクザにしか見えない男が出て来て、やばそうだ思っているといきなり拳銃を突きつけ、「お前も危なくなっているぞ」と言って去って行った。司馬遼太郎に続き、政府を批判している私も殺されるかも知れないということがわかる。家に戻り、塀の番号を記した手帳のアドレス帳を見ようとすると、アドレス帳がオールカラーのチラシになっていて、見るとそこで動画のCMが始まった。見ると愛のためには金がいる、金がなければ借りろというメッセージのサラ金の広告だが、返せなくなった男が去勢された姿まで映っていてかなりやばそうである。最後に契約のために拇印を押せ、と言うと同時に目の前に若い男が現われ、セロファン紙を私に持たせる。私は驚いて、どっから入った、すぐに出て行かないと警察を呼ぶぞと言うと素直に出て行くそぶりを見せる。私はすぐ、セロファン紙をつかんだことを思い出し、その際指紋がついて勝手に契約書をつくられる可能性があると思い、そのセロファン紙をアルコールで拭くから渡せと言う。それにも手間取っていると男がそばに来てセロファン紙にジュースをかけた。私は家内に警察を呼べと言い、その一方でこのセロファン紙を置いていけば警察は呼ばないと男に言うとそれでいいと答える。私は家内に警察には電話しなくていいと言うが、電話を続けているので近づくと蕎麦屋に出前を頼んでいるのであった。その間に男はいなくなり、残されたセロファン紙がすり替えられていたら大変なことになると心配し始めていた。
平塚にある大きな風呂屋に入った。体育館ほどもある大きさで混浴なのだが客は私ひとりである。温かくて気持ちが良い。私は目の前のカランから湯を出しっぱなしにして頭を洗っているが、気がつくと湯が止まっている。そして体が冷えたのを感じる。私は自分が女だから馬鹿にしているのだろうと思って腹を立て、再び湯を出し始めそれを肩から浴びて温まる。すると若いカップルが入って来た。私は自分が女だという意識を持ち続けているのに、女の子の方の裸を見ようとちらちら目を向けるのであった。