脱走劇

 文樂を寫した映像を見てゐる。最後の方は寝てしまひ、終はつて皆が拍手をするので目が覚めた。ややあつて松岡老師が壇上で簡単な説明をして散會となつた。場所は丘の上の弐階建ての本樓である。多くの人は關係者なのか弐階に上がつて行き、わたしは玄關に向かふと、丁度高山大人が來るところであつた。わたしは大人の影響でご推薦の本を幾つか讀みましたと話しかけ、暫し喋つてゐると中から老師が出て來て、ふたり連れ立つて何處かに出掛けて行つた。周圍では客であつた女性が車の中から他の女性グループに、元町に行くのなら乘せて行くよと言ふが、わたしには聲を掛けないのでひとりで坂を下りて歩いて行くことにした。

 歩いてゐると何處からか野球中繼が聞こえて來て、またしても巨人がチヤンスを生かせず無得点と言ふ。冷笑してゐると脇の空き地で巨大化したデスパイネバレンティンが素振りをしてゐるのに氣づいた。バレンティンは途中からテニスの素振りになつてしまひ、やる氣の無さが明らかである。中年の女性フアンらしき人が、ふたりにスマートフオンのアプリの使ひ方を教へて、記念寫眞を撮つたりしてゐた。そして、何か石のかけらのやうなものを出して、これは清水谷の自宅マンシオンのものだと言つて渡してゐる。嫌つたらしい女だと思ひながら猶も進むと、青いユニフオームを着た原監督以下の首脳陣が試合中にも拘はらず笑ひながら歩いてゐる。すれ違つて小道を右に折れると、その先に坂本選手の姿が見えた。しかし、わたしを見ると何故か回れ右をして逃げはじめた。わたしはかまはず歩いて、坂本とは別の方向に出る階段を登ろうとした時、さつき外國人選手と記念撮影をしてゐたおばさんがやつて來て、同じかけらを呉れるのだが、欲しくもないので其の場に置いて去らうとすると、階段に人の手だけがホログラムのやうに浮かんで見えるので怖くなる。そして横の壁にも、何だかわからぬ画像が見え、そのことをおばさんに言ふと、かけらを拝まねばならぬと言ふ。わたしはかけらに合掌をしてから線香に火を点け、さらにかけらを懐に入れて立ち去ることにした。

 やがて廣い工場の弐階にゐるのだが、どうやら此處は少年院のやうである。わたしは脱走できる梯子のある小さな穴を知つてゐて、仲間のオオタケンジと何喰はぬ顔で穴に近づく。作業着の他の受刑者が目を逸らした隙にふたりでさつと梯子を傳はつて降り、それぞれ別の方向に飛び出した。わたしは右手の塀に攀じ登るが、外の道は思ひのほか下にあつて飛び降りるのを躊躇ふ。停めてあつた車の上に降りることにしてやつと飛び降り、線路沿ひの道を走つて行く。ポケツトにはお金もあるやうなので、まずはコンビニエンスストアで何か好きなものを買はうと思ふ。やつと自由になれたといふ實感が湧いて來て、わたしは嬉しさに自然と笑顔になるのであつた。