策略

 自宅兼事務所の建物の中にたくさんの人がいて、忙しく立ち働いている。その一方で皆よく喋り、それがことごとく近所の人の噂である。隣の広い庭のある家にはレクサスに乗っている、事業本部長などやっていそうな眼鏡をかけた50過ぎの男がいるのだが、周囲の連中はその人のことを知性がないとか、ものを知らないとかボロくそに言っている。わたしは本人のことをよく知らないので黙っていると、急に装甲車のような大きな車がやって来た。家の前で止まり、その上に乗った屈強そうな男が号令をかけると、それまで周囲で働いていた男たちの八割がたが急いで職場を離れて車の前に整列した。警察から送り込まれた警官たちだったのである。おそらく、隣の男の悪口を言って、それにのっかってくるかどうかを内偵していたものらしい。彼らは点呼をして去り、急に人がいなくなってさびしくなった事務所で、何人かが悪口を言っていたものか、しょっぴかれたことを知る。わたしは警察のやり方に多少憤慨しながら、何も言わずにいてよかったと安堵するのであった。