忘却症

一月五日(土)晴
午前執筆、午後散歩の後映画『トト・ザ・ヒーロー』を観る。泥の河を観たら、どうしても観たくなったのである。細部はやけに記憶に残っているのに、ラストへの展開をすっかり忘れていた。優しく健気な姉アリスのことや、彼女が事故死する場面、大人になったトマがアリスそっくりの女性に恋して、それが宿敵アルフレッドの妻だったことを知るところなどは、かなり鮮明に覚えていてほぼ記憶通りだったのに、トマがアルフレッドの身代わりで死ぬことは全く覚えていなかった。これも日本で上映されてすぐに観ているから1992年くらいだと思うのだが、それでも26年は経っている。流石に今となってはアリスよりもエヴリーヌの方に魅力を感じるが、それでも銀子ちゃんと同じで、自分を小学校低学年に置き換えれば、うっとりするような魅力にあふれた姉であることは確かである。記憶ではもっと長くて話も込み入っていた印象があるのだが、わりと短かったし、話もそれほど複雑ではなかった。ストーリーを記憶しておこうという意識は常にないので、話の流れを覚えていないのは仕方ないにせよ、鮮明に覚えているところと全く忘れてしまったところがこうまではっきり分かれると、観た映画を良いとか悪いとかを、果たして後から言えるのかも自信がなくなってくる。ただ単に面白かった、良かったというぼんやりとした記憶があるだけで、どこが良かったのか言えないどころか思い出せないとしたら、それは一体評価と言えるのだろうか。まあ、映画に限らず、小説や本でも同じようなものなのだが。そうすると、次々と新しいものを追いかけるより、少なくとも面白かったという印象の残る作品をもう一度観たり読んだりする方が、ある意味充実した鑑賞になるものなのかも知れない。あるいはもともとわたしは映画を、気に入ったワンシーンに出会うためだけに観に行っていたと開き直った方がいいだろうか。