美術二館

 パナソニック留美術館にて「香りの器」展を観る。招待券を貰ったので赴いたものである。香水瓶、香道具など美しい展示がなされていた。その後新橋から銀座に出て、途中伊東屋で買い物をした後其の儘京橋、日本橋へと歩き、三越前から地下鉄で清澄白河へ。徒歩東京都現代美術館に至り「石岡瑛子」展を観る。友人のその衝撃を伝える報文に接し、急遽行ってみることにしたのである。

 正直、驚いた。初期の資生堂、パルコ、角川書店などの仕事はリアルタイムで見ていたはずなのだが、今改めて見るとその破壊力に心底驚かされる。最近の「きれいな」グラフィックスにはない何かがそこにある。端的には「熱量」の違いのような気はするが、そう簡単に答えを出してしまうことをためらう。そして、頭の中で渦巻く思考の反芻が、そういう経験が久しぶりであることもあって、心地よい。

 そして、映画や舞台の衣裳を中心にした後半の活躍は、知らずにいたものが大半だっただけに圧倒された。耽美的でありながら、内に籠らない「拡がり」がある。みずからの求める美を追求しながらも、何が求められているかを自己検証する必要のある商業的状況がそれを可能にしたのかも知れない。

 それにしても、石岡のデザインしたコスチュームの数々は、ひとりのアートディレクターのもとで構成された一連の衣裳が完全に新たな世界を出現させることを理解させてくれた。そして、才能とか才気ということばでは追いつかない、デザインという営みの底知れぬ力に驚愕した。デザインは、やろうと思えば何でも出来るものなのだという衝撃である。

 もっとも、デザインしてそれを現実のものに仕上げるまでのプロセスは、石岡ほどの美的な完成度はないにせよ、それに近いことは日常生活や仕事の中でもやろうと思えば出来ることなのではないか。何故、それをやろうともせずに不平をかこっているのか。…そんな、自分自身に突きつける疑問を抱かせてくれる衝撃はそう多くはない。今の自分が求めていることにつながるヒントを得たような、収穫の多い展観であった。