四月二十四日 (日)晴

久しぶりに天気が良く、朝から洗濯、掃除。午後はふと思ひ立つて、フジコ・ヘミングのピアノを聴きながら革靴の手入れをすることにした。所謂靴磨きである。わたしは靴の手入れにはうるさい方で、サドルソープを始めとして各種クリーナーや靴墨、ミンク・オイルからブラシや拭き布の類までを揃へ、木製のシユーキーパーも二組持つてゐるが、きちんと手入れをする気になつたのは久しぶりである。
随分捨てたつもりだが、それでも十二足あつた。古いのは二十年以上前にパリで買つたもので、バリーの黒のストレートチツプとA.テストーニのライトブラウンのモンクストラツプでソールの上やトウにも飾りのあるもの。何故まだ残つてゐるかといふと、殆ど履いてゐないからである。バリーのは完全にフオーマル用にしてあるので履く機会も少ないから長持ちするし、テストーニのは一番気に入つてゐるものの少しきつくて長く履くと痛くなるのと、こちらも余程お洒落しないと似合はないといふこともあつて履くことが少ないのである。
後は2000年に買つたレノマのブーツが古いくらゐで、後は此処四五年に買つたもので、ビジネス系が六足、ウオーキングが三足。ウォーキングはソールはラバーだが、その他は勿論革製のソールである。色は黒が七足と茶系が五足で、意外と茶系が多かつた。紐を結ぶタイプは少なく、スワール・トウかVチツプ式のものが多い。履きやすいからである。
パリではずいぶんたくさん靴を買つたがよく履くのは当然直ぐに傷んでいずれ捨てることになる。チヤーチのボルドー色のローフアーなど、香料をこぼして慌ててアルコールで拭いたら余計に斑になつてしまひ、それでも暫く履いていたが今はもうない。ステフアン・ケリアンの店が家の近くにあつたのでよく買つてゐたが、ひとつも残つてゐない。
大抵の靴は履いてゐるうちに踵はもちろんソールのつま先部分が磨り減つて薄くなり革が白つぽくなつてしまふ。靴磨きのポイントのひとつは此のつま先のへりにきちんと靴墨を塗つてやることである。場合によっては靴底に及んでもいい。とにかくソールの部分が汚れてゐたり白茶けてゐたら、上を幾ら磨いても見栄へがよくならないのである。
革靴といふのは凄いもので、磨けば光るのである。其れもブラシとクリーナーで汚れを落とし、クリームを塗つてから兎に角滑らかな布で磨き上げると、ピカピカに光るのではなく飴色に光つて来る。手入れのし甲斐があるといふものだ。
靴の思ひ出をあれこれ書かうと思つてゐたが頭痛がして来たので今日は此れまでにする。