志野流入門

六月十二日(日)晴後陰、夜になり雨
午前中思ひの他天気が良かつたので早めに出掛けるのを止め、第二次の衣替へと洗濯及び部屋の乾燥などを敢行。昼過ぎに家を出て原宿駅竹下口にてSさんと待ち合はせ、徒歩五分ほどのビルの三階に上ると、全く別世界のやうな「和」空間が出現。其処が志野流の流れを汲む香道の教室であり、わたしは今回初めての参加。御家流の会に一年程通つたものの、御家流や先生の雰囲気、教室に香水の匂ひをさせながらやつて来る生徒などに違和感を覚へて行かなくなつてすでに一年が経つてしまつたが、今回大学のサークルの後輩を通じて紹介された此の会で、今度は志野流に入門することになつたのである。
先生は品のある奇麗なご婦人で、今日の生徒はわたしの他三人で皆女性である。志野流作法通りと思はれる調度の並ぶ実に贅沢な和室で、まずは灰作りの割り稽古。御家流とはところどころ手順も名前も違つてゐて多少の戸惑ひはあるが、かくも丁寧に教へてもらつたこともないので、結局よく教へてもらつた方がすんなりと覚へられるもののやうで、すぐに慣れた。相変はらず不器用さは隠しやうもないが、手順をしつかり教へて貰へるので灰押さへに集中できる分何とかなりさうだ。
其の後香席となり菖蒲香といふ組香を行ふ。試香として菖蒲を聞き、本香で五香聞いて何番目に其れが入つてゐたかを当てるもので、わたしは迷つた末に外してしまつた。三つは明らかに違ふが、似てゐる二つのどちらかで迷ひが生じ、迷ひが記憶を歪めるのであらう。最初の印象通りに答へてゐれば当りなのを、邪念の囁きを聞いて外したのである。まあ、当り外れは遊びであり、五つの香木はそれぞれに個性も味はひもある香りでそれらを愉しめたのは幸ひであつた。
それからお茶となり反省含め雑談。流石に女性同士の会話の流れにうまく乗ることはできず、専ら聞き役である。初参加のわたしについて何か聞かれる訳でもなく、淡い交はり故の居心地の良さはある。外部に宣伝とか募集を出すのではなく、ごく内々の紹介で来るやうになつた人ばかりのやうで、何かしら安心感がある。日常を離れた閑雅な時間を過ごせた二時間余であつた。しばらくは続けてみやうと思ふ。