書斎清涼

八月三日(金)晴
会社を休み朝から室外機を設置する裏庭の草取りを為し、処分する古いエアコンを屋根裏から出すなど一日分の汗を三十分で掻く。八時半工事人來たり、一時間程で嶺庵に新しいエアコンを設置す。序なれば嶺庵の大掃除も為す。午睡の後讀書、『宮島詠士』讀了。詠士青年時代の中國留学中の様子を詳らかにしたる書なれば、詠士の人となりを知るに至る。其の青雲の志と学問に對する真摯な姿勢は驚くべきものあり。明治期の候文は思ひの他讀みやすく詠士の書簡によつて其の肉声を聞くやうな親しみを感ずる良書也。唯惜しむらくは詠士の書の真価や其の芸術の特質・本質についての言及の少なき事であらう。
後涼しき嶺庵にて筆を揮ふ。宮島詠士の師であつた張廉卿の書になる厳維丹楊送韋参軍詩を臨書。恐らく同じ詩を詠士自身が書いたものが一如庵玄関正面に掲げられた書幅ではないかと思ふ。其れから先日、函館で撮影したる写真をアルバムにして送り給へる札幌在住の写真家Iさんに、其の礼状と御礼の色紙を認む。色紙には「繪にする人」と揮毫す。蓋し被写体となる者を安心させ自然な好い表情の写真を撮る名人なれば、「繪になる人」を捩りて斯く言ふ也。又、今週末は岳母の誕生日なれば、此方は「松風」と色紙に書き贈ることとす。他にも二・三、人に贈りたき色紙あれど既に失敗の色紙山を成したれば、後日を期す。いづれにせよ嶺庵に冷房が付きたれば書道も出來るし人も呼べるので、此の夏は色々樂しめさうである。