春分の日

三月二十日(水)晴
家の近くの櫻はすでに花開き、中には満開の木もある。幾ら何でも早過ぎるのではないか。
終日家に在り、讀書と執筆を為す。ジュリアン・ジェインズ著『神々の沈黙』讀了。此の本から受けた衝撃は大きい。近來では最も大きな驚きと面白さであつた。邦題も秀逸だが、ジェインズの説で腑に落ちたことは多い。神とは何であつたか、人間の意識の起源とその在り方はどのやうなものであつたかについて、今まで讀んだものの中で最も明快な仮説を提示してくれた本である。論証の不足するところ、議論の飛躍や粗漏もないではないが、長い間混沌としたものにしか思へなかつた問題について、光明が射したやうな氣がしてゐる。少なくとも、統合失調症や預言、憑依のメカニズムなどといつた、まだ誰も解答を得てゐない問題については、ジェインズの言ふ「二分心」を想定した方が理解しやすいのである。詳しくは通信に書くつもりだが、當分は此の影響下から抜けられない氣がしてゐる。