書棚

十二月二十八日(土)晴
鹿島先生『昭和怪優傳』讀了。不覚にもまさか鹿島先生がヤクザ映畫の大フアンだとは知らずにゐたが、一九七〇年代の日本映畫の、それもB級と言つて良いプログラムピクチャーを年平均三百から四百、多い時には五百本も観たといふのだから驚きである。しかも、大上段から映畫を語るのではなく、其処に脇役として繰返し同じやうな役で登場する為、役と本人の個性が融合して「第三人格」を持つに至つた名脇役たちを取り上げるところが素晴らしい。荒木一郎から始まつて、ジエリー藤尾、岸田森佐々木孝丸伊藤雄之助、天地茂、吉澤健、三原葉子川地民夫芹明香渡瀬恒彦と續いて成田三樹夫で終る十二人を取り上げてゐるのだが、私の見知らぬ俳優も、名前と顔の一致しなかつた人もあるのに、讀後はそれら名優たちのフアンになつてゐる。映畫と時代を語る文章の力たるや恐るべしではないか。實際、鹿島先生より一回り後に生まれた私にとつて、同時代でありながら子供だつた為に状況をよく理解は出來てゐなかつた七〇年代といふものを、此の本によつて少しは理解し始めたやうにも思ふ。其の意味で此れは良質の七〇年代論でもあるのだ。
それにしても取り上げられた人々は魅力的だ。岸田森渡瀬恒彦は前から好きだつたし、成田三樹夫に至つては好き過ぎてどうしたらいいか分からない程だ。日本映畫のヒーローには、ホモ・セクシユアルではなくとも男に惚れるホモ・ソーシアルな雰囲気が濃密であることを鹿島先生に喝破された以上、其の語の下に安心して私もカミングアウト出來るものである。健さんも大好きだが、私にとつてホモ・ソーシアルな意味で愛して止まない俳優と言えば、成田三樹夫萩原健一、そして北村一樹に尽きる。しかも今囘、山形大中退だと思つてゐた成田三樹夫の學暦が、實は其の前に東大にも合格、入學したものの水が合はずに中退してゐたことを知り、驚くと同時に、其の事實を広く語りもせずに逝つた恰好良さに痺れた。探偵物語で、僅かにリアルタイムの三樹夫を見られたことを幸せに思ふより他はない。
此の日は先日届いた書棚を組み立てて二階のリビングの窓下に設置して、畫集や美術書を其処に収めた。其れまで其処にあつた文庫用の薄い書棚はリビングの片隅と書斎の壁際に分けて置いた。重い美術書の整理は骨が折れ、腰や肩始め全身が痛む。老體憐れむべしであらう。別置き書庫への移設も進み、書斎の書棚にもだいぶ隙間が出て來た。今年購入した本は昨日までで二百十二冊、寄贈された雑誌類を含めると二百五十冊は下るまい。やや少ないが、まあ例年と左程変らぬ數ではないかと思ふ。圖書館も利用してゐるからそんなに本を買ふ方ではないだらうが、其れでも四年で千冊増えれば置場がなくなるのは目に見えてゐる。