彫刻と新内

三月二十七日(日)陰時々晴
久しぶりに着物で家人と外出。日暮里まで行き、朝倉彫塑舘を訪ねる。初めてだが彫刻のみならず書斎の天井までの書棚やその蔵書、池に石を配した庭、大小の和室の造作の工夫や飾り棚など見どころ多く、思ひの他面白かつた。入口で履物を脱がされスリツパもなくアトリエを歩かされるのだが、其の後母屋の畳の上に進むので仕方がないのであらう。後で見ると掃除が行き届いてゐるのか足袋はさして汚れてゐなかった。
彫塑舘を出て谷中銀座を歩き、千駄木で晝食。其の後六月に一日だけ台東區で上映される映畫『天心』の前賣券を買ふ。この映畫、勿論岡倉天心を主人公とするものだが、天心を演じるのは竹中直人である。余は此の俳優の演技がくどくて鼻につくので嫌つてゐるが、天心に似た風貌なのは確かなので觀る氣になつたのである。其れから地下鐡を乘り繼ぎ四谷に出る。上智大學の脇を通つたのだが東南亜細亜系の人々大挙して群れ居り雑踏甚だし。何事かと驚く。二時より紀尾井小ホールにて『新内節第九囘若手傳承者研修發表會』を聞く。文化廰補助事業たりしも、今囘をもつて補助が終るといふ。京都移轉も良いが、江戸からの傳統文化を大切にしてもらひたいものである。演目の方は古典のみにて、宮之助師匠は「鬼怒川昔噂」を語り、人間国寶鶴賀若狭掾は「男作出世員唄」を語る。此の二番が矢張り聞き應へがあつた。其の他も全體に演者の聲質や語り口の個性が感じられて面白く聞く。ただ、義太夫同様、浄瑠璃はやはり男声を余は好むやうである。歸りは新橋経由東海道線で座つて歸る。日曜は電車が空いてゐて助かる。歸宅後着物のまま嶺庵で尺八を少し吹いてから着替へる。