カメル

二月十三日(木)陰
水槽の中に亀がゐる。すつかり忘れてゐたのだが、誰かに貰つたまま放置してあつたのだ。水槽内には壊れたラヂオや小さな箱などが詰まつてゐたせゐで見えなかつたといふこともある。それでも水槽にはミルクテイーのやうな液体が水槽の四分の一ばかり殘つてゐたのでそれが養分になつてゐたのか亀は生きてゐる。これからはちやんと餌をやることにしやう、どんな餌がいいのだらうと考へながら水槽の中のものをどかしてゆくと、亀は亀なのだが甲羅が思ひの他小さくて、どちらかといふと蛙だなと思つたとたん、案の定蛙跳びで外に飛び出してしまつた。慌てて捕まへて水槽に戻したが、やはり物が置いてあつた方が良かつたのである。それで家人に物を戻すやうに言ふと、ラヂオをカメル(亀と蛙の合いの子なのでカメルと呼ぶらしい)の下に置いたので、やつぱりカメルは飛び出してしまふ。余は苛立つて、さうじやない、カメルを動けないやうに物で埋めてしまへと叫んでゐた。