良い字

三月十六日(水)陰
最寄り驛の近くにある駐輪場の壁面に硝子張りの展示スペースがあつて、地元の人の作つた工藝品や美術作品が週替りくらゐで展示されてゐる。往き歸りに通る道筋なので、偶に見ることがある。先日子どもたちの書の展示があつて、多くは余の嫌ひなあいだ某流の、無邪気さを装つたあざとい字が並ぶ中でひとつだけ輝くやうな佳作が目に飛び込んで來た。りお君の「しあわせ」の四文字である。これが實に良い。ケレン味がないといふのはかういふのを言ふのであらう。元氣もあるし、筆を揮ふ際の顔の表情まで目に浮かび、こちらまで「しあわせ」な氣分になつて來る。しかも、よく見ると單に書き撲つた譯ではなく、きちんと線の引き方を遣ひ分けてゐるやうである。特に「せ」が良いが、「あ」も「し」も味があるし、「わ」も元氣があつて素晴らしい。おまけに「りお」の落款印に何とも言へぬセンスを感じるのである。當り前のことを素朴さを装つた字で書き連ねるあいだ某流の厭らしさが跋扈する中で一服の清涼感を得た思ひである。