役員会

十一月十八日(金)晴
突然呼び出されて行った先が役員会議室であった。初めて入るその部屋は天井も高く装飾も豪華でヨーロッパの王宮の中にいるようである。私は末席と思われる場所に会議中にも拘らず腰を下ろすと、役員たちが睨みつける。そこは役員席で、その外側に部長クラスが傍聴席のように取り巻いているのにやっと気づいて後ずさりする。どうやら自分は年史関係の報告をすることになっているようで、確かにそうするよう言われた記憶はあるものの、何の準備もしていない。頭の中で整理しようとするが、発言している役員が実に堂々とゆっくり分かりやすく嚙む事もなく滔々と弁じたてているのを聞いて、うまく喋れるか不安になる。その人の発言が終り、さらに二三人が手を挙げて発言を求める。自分の番はだいぶ先になりそうなので少しだけ安心する。すると、指された役員は日本人なのに英語で話し始め、実際役員には外国人も混ざっているので自分も英語でやらされるのかも知れないと思うと焦りはじめる。やがて休憩の時間となり、秘書の連中が紅茶を役員に持ち来たり、同時に背後でヴァイオリンの演奏が始まる。そして、役員はというとあっと言う間に着替えたらしく、それぞれが色彩や刺繍の鮮やかな、インバネスのようなマントを着けている。それが実に格好いいのである。普段は冴えないスーツ姿の役員が、一気に高貴な人々に見える。慌ててプログラムを見ると、後半は「旧制高等学校」となっていて、なるほどそういう趣向だったのかと納得する。私は隅に行って少し休むことにするが、誰もいなくなってしまったので横になる。すると嘗ての愛人で今は心から嫌っている女が裸体の上に薄いヴェールのようなガウンという姿で現れ、私の背中をさっと触って恨み言か侮蔑のような言葉を投げて去っていく。よく聞き取れなかったものの、腹を立てた私はとりあえず追いかけ始めるのだが、自分も下半身裸であることに気づき、とにかく何か履かなくてはと思って職場に戻る。私は調香師に復帰していたようで、職場は研究所で、ちょうど皆で食事会をしているところであった。食べ終わって食器を各自片づけ始めるが、いつまでも食べているのがいて見るとそれは西村であった。ああ、やっぱり普段しっかり喰えていないのだと悟る。それから私はcis-3-hexenyl salicylateという香料を原料庫で少量小分けする。その際こぼしてティッシュで拭き取る。小瓶を持って席に戻るが、周囲でアシスタントや他のパフューマーが忙しそうに立ち働く中、自分には何もやるべき仕事がないことに気づく。一応メールボックスを開いてみるが新着のメールはもちろん何もない。私はようやく、役員会はどうなったのだろうかと思い始めるのであった。